文学が裁く戦争

本書は戦争裁判に関連する文学作品を年代順に考察したものである、著者は金ヨンロン、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、現在は大妻女子大学文学部専任講師、専攻は日本近現代文学、

東京裁判と同時代作家たち

1傍聴人としての作家たち―川端康成・大佛次郎、川端康成と判決の日、東京裁判の精神と未来への提案、大佛次郎の判決の意味、世界の視点と被害者への想像力、2裁判が残すものー中山義秀・中野重治・宮本百合子、証人台の溥儀と占領期検閲、中野重治の戦争責任論、暴力の連続性、宮本百合子と東京裁判、林芙美子と文学者の戦争責任、3文学者の前景としての戦争裁判ー梅崎春生・久生十蘭・林芙美子、梅崎春生「黄色い日日」、ラジオから聞こえる判決、読解のキーとしての裁判、推理小説としての久生十蘭「蝶の絵」、復員兵の謎、林芙美子と「浮雲」による応答、 

BC級裁判が突き付けたもの(1950年代)

1スガモプリズンの群像ー火野葦平「戦争犯罪人」と安倍公房「壁あつき部屋」、火野葦平「戦争犯罪人」が描くBC級戦犯、BC級裁判をめぐる問い、BC級戦犯を描くディレンマ、プリズン内外の変化と象徴的審判、「戦争犯罪人」と「壁あつき部屋」の共通点、被害者の顔と植民地問題、2BC級裁判と女性たち―大原富枝「巣鴨の恋人」と樋口茂子「非情の庭」、戦犯と女性たちの対比、大原富枝「巣鴨の恋人」、戦争裁判観と女性表象、樋口茂子「非情の庭」と女性一人称、嘆願運動の記録が持つ意味と限界、3捕虜問題とレイシズムー遠藤周作「海と毒薬」と大江健三郎「飼育」、遠藤周作「海と毒薬」が問いかけるもの、暴力の連鎖とレイシズ、大江健三郎「飼育」に連なるもの、出来事の暴力を書き残す、

裁かれなかった残虐行為(1960年代)

1アメリカの残虐行為を問うー堀田善衛「審判」、審判を待つアメリカ人、中国での残虐行為と象徴的処罰、ジェンダーと暴力の連続性、罪の比較と抽象化される原爆投下、仮構の法廷と「審判」、2植民地支配責任を問うー小田実「折れた剣」、小田実の韓国訪問、「折れた剣」の設定と登場人物、戦争責任を否定する論理、志願/命令の論理を解体する、朝鮮人戦犯が要求する証明、韓国での再審と応答可能性、

ベトナム戦争と蘇る東京裁判(1970年代)

1舞台で再演される東京裁判ー木下順二「神と人とのあいだ」、東京裁判の速記録と戯曲、「審判」と「夏」の齟齬、1970年代の読者、裁判と戯曲という形式、2推理小説が再召喚する戦犯ー松本清張「砂の審廷」、「砂の審廷・小説東京裁判」の特異性、推理小説と東京裁判、裁き直される大川周明、揺れ動く小説の解釈、真犯人は誰か、A級戦犯の伝記がもつ特性、伝記小説による再審の意味と限界、

経済大国と混迷する戦争裁判観(1980年代)

1ノンフィクションの時代と戦争裁判観の更新ー大岡昇平「ながい旅」、80年代とノンフィクション、なぜ岡田資に注目したか、「ながい旅」の記述的特徴、既存の裁判観に対する問題提起、「ながい旅」の成果と限界、2「勝者の裁き」論から「東京裁判史観」へー江藤淳「閉ざされた言語空間」、ノンフィクションとして読む江藤淳、江藤が復元する東京裁判、80年代的欲望、戦後日本の否定と「東京裁判史観」、3ポスト戦後文学ー村上春樹「羊をめぐる冒険」、村上春樹「羊をめぐる冒険」、A級戦犯という謎の記号、「羊」が象徴すること、「ポスト戦後文学」としての幻想文学、

記憶をめぐる法廷(1990年代から2000年代)

1戦時性暴力の証言と文学ー川田文子の聞き書き、証言を受け止める形式、「赤瓦の家」の特徴、世界中の声を読者に届ける、代替え不可能な経験の翻訳、存在証明としての写真、聞き書きという空間、2普通の人々」を巻き込む再審ー井上ひさしの東京裁判三部作、トラウマの分有を諦めた読者へ、「夢の裂け目」の家庭法廷、普通の人々を再審する、「夢の泪」の弁護演習、朝鮮人と日系二世の物語、「夢の痂」の予行演習、日本語文法と昭和天皇、責任の体系を立て直す、記憶の時代と文学の再審、

戦争裁判と文学の今と未来(2010年代以降)

1戦争裁判を描いた日本文学の現在、震災後に再演する私的な東京裁判、他者のいない「プリズン」の構造、朝鮮人戦犯の罪を問う、「自分」という危ういレトリック、2再審としての読み方ー世界文学へ、「世界文学」という読み方、戦争裁判と「世界文学」、原爆文学とホロコースト文学、法と文学ー「人道に対する罪」、女性による戦争裁判、

まとめ

東京裁判と同時代作家たち、BC級裁判が突き付けたもの、裁かれなかった残虐行為、ベトナム戦争と蘇る東京裁判、経済大国と混迷する戦争裁判観、記憶をめぐる法廷、戦争裁判と文学の今と未来で構成、1940年代から2010年代まで文学は戦争犯罪を繰り返し呼び戻してきた、今後の文学の可能性を注視してほしい、

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