本書は絵巻や掛幅画に描かれた闇について読解したものである、著者は山本聡美、早稲田大学大学院後期博士課程単位取得満期退学、共立大学教授、専門は日本中世絵画史、
①地獄
1地獄草紙-永遠という絶望、地獄の果てしなさ、堕地獄の理由・「地獄草紙」、猛火の時代、2六道絵ー厭離穢土の大パノラマ、末法の到来「往生要集」、六道輪廻の衝撃、大画面で迫る凄惨な描写、絵解きされる「六道絵」、3矢田地藏縁起絵巻ー地獄をすみかとする菩薩、菩薩とはなにか、地蔵菩薩の本願、地蔵と閻魔王、日本の地蔵信仰、満米上人の地獄めぐり「矢田地蔵縁起絵巻」、
②鬼と怪異
1餓鬼草子⁻産屋に現れた虚実の裂け目・「餓鬼草子」、嬰児を喰う餓鬼、見えないけど・すぐそばにいる恐怖、2長谷雄草紙ー鬼との契約、鬼とは何か、男女を引き裂く鬼・「伊勢物語」、鬼が跋扈する時代・「長谷雄草子」、双六勝負のゆくえ、鬼が造った女、卓越した知性と結びつく鬼、3北野天満宮縁起絵巻(弘安本)ー怨霊から真理の守護神へ、栄華と失脚、猛威をふるう怨霊、神となった道真、天神縁起絵巻の成立、女房の虚言と狂乱、4土蜘蛛草子ー妖怪変化の棲む館、辺境の異民族、武蔵と血統、異界への入口、化け物屋敷怪異、傾国の美女、護国のイデオロギー、土蜘蛛の領分、5天狗草子ー天を駆ける魔、日本国一の大天狗、仏法を妨げる天魔、天狗とは何か、延暦寺衆徒と若天狗、七種の天狗、大天狗のゆくえ、融通念仏縁起絵巻ー疫神と将軍、相互に融通しあう念仏の功徳、転写される絵巻、華麗なる競演、権力の継承と絵巻制作、念仏に帰依する疫神たち、将軍の夢、
③病
1病草子(二形)ー罪の表象としての身体、仏教と病、病草子とは何か、両性具有をめぐる罪業感、残酷な笑い、男巫としての二形、性の境界線、後白河法皇と六道絵巻、2粉河寺縁起絵巻ー千手観音像の陰影、出家は幸か不幸か、憧れの霊地・粉河寺、後白河上皇の粉河寺信仰、粉河寺創建の由来、病と罪業、蓄財の罪、発心という名の福徳、
④死
1後三年合戦絵巻・平治物語絵巻ー生死を分かつ・合戦へのまなざし、描かれた戦、「平治物語」の成立、武力の両義性、2九相図ー死体の図像学、二つの九相図、「摩訶止観」と九相図、「往生要集」が説く人道不浄相、伝空海作「九浄詩」と無常観、人道不浄相ー四季に彩られた死体、3九相詩絵巻ー死体の文学、発心する男、教導する女、九相詩絵巻の登場、死体の図像が喚起するもの、
⑤断罪
1閻魔王ー死者はいつ裁かれるのか、地獄か極楽か、十人の裁判官、閻魔の起源、善悪を映す鏡、観察する神と記録する神、火焔と光、祈りの場、十王図ー三途河の奪衣婆、初七日の裁判官、本地仏とは何か、奪衣婆の登場、鬼婆のいる水景、将軍家に仕えた絵師、
⑥悲しき女
1病草子(不眠の女)-闇の中の女、暗闇の中の女、「不眠の女」の住む世界、2伴大納言絵巻ー泣く女、応天門の変と摂関政治の幕開け、語り継がれる事件から絵巻へ、善と悪の物語、泣く女と罪深い日常、3道成寺縁起ー毒蛇になった女、追う女と逃げる男、道成寺をめぐる説話と縁起、スピード感あふれる画中詞、聖地巡礼、道成寺の観音信仰と熊野の阿弥陀信仰、道成寺縁起を見た将軍、4華厳宗祖師絵伝ー足摺の図像学、もう一つの化身譚、恋から始まる信心、足摺とは何か、立ち上がる善妙、5小野小町像ー驕慢の果ての孤独、不思議な小町像、情熱の女流歌人、女の一生、花の色の末路、
まとめ
日本美術の闇を地獄・鬼と怪異・病・死・断罪・悲しき女のテーマ別に分け、読解したもの、暗闇にうごめく想いは人間性の創造にとってかけがえのない伴侶である、