日本近代文学入門

本書は日本文壇にゆかりの深い12人を取り上げ、テーマごとに二人ずつ焦点を当て、本当の人間的側面を浮き彫りにしたものである、著者は堀啓子、慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得、東海大学文化社会学部教授、専門は日本近代文学史・比較文学

異端の文体が生まれたときー耳から目へのバトン

①三遊亭円朝「怪談牡丹燈籠」ー耳が捉える落語の魅力、名人噺家が生んだ名作、「怪談牡丹燈籠」タイトルの由来、妖気を帯びた高座、大成功の秘訣、七歳で初高座、雪の日も雨の日も裸足で、転機となった大地震、災い転じて福となす、怪談噺とリアリティーの追求、円朝の交遊、耳から目へ、話し言葉から読み言葉へ、②二葉亭四迷「浮雲」ー最初の近代小説が生んだ新文体、落語から生まれた近代小説、新しい文体の誕生、言文一致体小説の先駆、「人真似」の文体、絶賛された内容、タイムリーなリストラ小説、非職免職は流行語、「くたばってしまえ」のペンネーム、詐欺師を自認した二葉亭、

女が書くことの換金性ー瘦せ世帯の大黒柱とセレブお嬢様

①樋口一葉「十三夜」ー才か色か・女性に換金しえたもの、書くことの換金性、一家の大黒柱になるまで、教員月給の半年分の稿料、桃水に弟子入り、デビューとスキャンダル、師との別れ、靄のなかの一葉、貧窮生活の苦労、ダルマからきたペンネーム、「まことの詩人」と絶賛、玉の輿の功罪、作家・一葉の個性、②田辺花圃の藪の鶯」ーセレブお嬢さまの自画像、セレブ一家の裏事情、当代の清少納言、「戯れ」の収入で一周忌法要、お嬢さまの等身大小説、同時代の評価、「小説家」として「十六名媛」に、

洋の東西から得た種本ー模倣からオリジナルへ

①尾崎紅葉「金色夜叉」ー換骨奪胎を超えた創意、親分肌の江戸っ子、原敬をしのぐ政治的手腕、西洋文学という源流、墓に手向けてという遺言、ヒントとなった原典、傷だらけの机、文と想の融合、天秤にかけられた愛情と財産、女より弱い者、ヒントから羽ばたくもの、オリジナルの発意、名作は時空を超えて、②泉鏡花「高野聖」ー染め出されていく源流、本歌取りの技巧、受け継いだ職人気質と潔癖症、代表作への毀誉褒貶、「高野聖」に見る善知識、迷走する「高野聖」の原点、原作を求める作品、織り交ぜられたルーツ、

ジャーナリズムにおけるスタンスー小説のための新聞か・新聞のための小説か

①夏目漱石「虞美人草」ー新聞小説としての成功と文学としての「不成功」、迷いと苦悩の前半生、都落ちからスタートした「坊っちゃん」人生、望郷の念・ロンドンから東京へ、ワカラナイ講義をする教師、教え子の自殺、白湯的小説「吾輩は猫である」、先輩の存在、弱い男も弱いなりに、死ぬよりいやな講義の準備、「変人」としての選択、博覧会という時事ネタ、「だらだら小説」の「殺したい」ヒロイン、小説のための新聞、⑤黒岩涙香「巌窟王」ー新聞売り上げのための成功手段、新聞界のマルチタレント、土佐のいごっそう、英語小説三千冊で培った英語力、「探偵小説の父」へのきっかけ、ぞくぞくと涙香訳に夜が更ける、新聞は社会の木鐸である、優れたタイトルセンス、絶賛された「巌窟王」、発信されるメッセージ、

実体験の大胆な暴露と繊細な追懐ー自然主義と反自然主義

①田山花袋「蒲団」ースキャンダラスな実体験、ペンネームは匂い袋、大柄な「泣き虫小説 」作家、日本流自然文学の先駆け、「蒲団」のために検事局で取り調べ、スキャンダルの影響、書くことのジレンマ、モデルへの謝罪、豪快な外見と乙女な内面、文壇を生き抜く、②森鴎外「雁」ーやさしい追憶、自然主義作家の敬慕する反自然主義作家、「閣下」に出会えた一作家、医学士としてのキャリア、厭世観を埋めるために、浪漫誌の紹介者、攻撃的な文芸評論家、蛙を呑む心持ーエリートの挫折、実話のちりばめられた佳作、反自然主義の作風、

妖婦と悪魔をイメージした正反対の親友ー芸術か生活か

①菊池寛「真珠夫人」ー新時代の妖婦型ヒロイン、生活第一・芸術第二、教科家書も写本した少年時代、マント事件、京都の学府へ、二十五才未満の者・小説を書くべからず、「真珠夫人」の成功、「文藝春秋」創刊と芥川賞・直樹賞の創設、文士の地位向上への熱意、通俗小説人気の確立、②芥川龍之介「侏儒の言葉」ー警句の普遍性、鬼才の鮮烈なデビュー、正反対の親友、辰年生まれで龍之介染物屋・芥川のバリエーション、あざ笑う悪魔に私淑、「悪魔の辞典」の影響、侏儒の言葉、芥川と田端文士村の終焉、

文学のその後・現代へ

文学の文明開化、大正デモクラシーと娯楽小説の多様性、モダニズムから戦後文学へ、双方向型の今日へ、

まとめ

異端の文体が生まれた時、「女が書くこと」の換金性、洋の東西から得た種本、ジャーナリズムにおけるスタンス、実体験の大胆な暴露と繊細な追懐、妖婦と悪魔をイメージした正反対の親友で構成、木曜会から連なった漱石山脈、紅葉を筆頭に回覧雑誌・我楽多文庫を囲んだ硯友社、鷗外や露伴や緑雨と気焔を上げた「めざまし草」芥川が求心力となった田端文化村がある、

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